賃貸借契約 家財処分条項の有効性親族を役員にするときには注意が必要
弁護士 杉浦 恵一
最近、
「売掛金のファクタリング」や、
「請求書のファクタリング(請求書の買取サービス)」
という言葉を聞く機会も増えているかもしれません。
「ファクタリング」といっても具体的には何のことか分からない方もいらっしゃるのではないかと思います。
「ファクタリング」というのは法律上の用語ではありませんので、使っている会社・業者によって細かい点が違っている場合もあります。
ただ、一般的には「債権譲渡の形態」をとっていることが多いと思われます。
ファクタリングの流れとしては、
1 | 取引先がファクタリング業者に売掛債権を譲渡し、債権譲渡代金が支払われる |
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2 | ファクタリング業者は取引先に売掛金の回収を委託 |
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3 | 売掛金が支払われればその売掛金を取引先がファクタリング業者に支払い |
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↓
4 | 取引先から入金がなければ売掛先の企業に債権譲渡通知を発送して、ファクタリング業者が直接回収を図る |
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といった流れが多いと思います。
債権譲渡は、民法でも認められている取引の一形態です(民法466条)。
そのため、取引先が売掛金のファクタリングを行い、ファクタリング業者から「債権譲渡の通知」が届く可能性もあります。
そのような通知が届いた場合、適正に債権譲渡がなされていれば、売掛金は取引先ではなくファクタリング業者に対して支払う必要があるでしょう(債権譲渡禁止特約がない場合)。
債権譲渡の方式をとるファクタリングは債権の売買ですから、ファクタリング業者が利益を得るためには、回収される売掛金の金額と債権譲渡の売買価格との間に差があることになります。
少し待てば売掛金が支払われるところを、
「売買代金との差額分は損してもすぐに現金がほしい」という取引先が、ファクタリングをしていると予想されます。
そうしますと、ファクタリングを行っている取引先は、それなりに資金繰りが苦しいのではないかと予想されるところです。
ファクタリングの場合、一般的には売掛金のある取引先に対して、本当に売掛金があるのかどうかは確認せず、請求書などの資料のみで債権の売買をすることが多いようです。
そうしますと、この仕組みを悪用しようと思えば、請求書の金額等を偽造して、実際の請求額よりも高い金額を基準に債権譲渡をするところや、1つの売掛金を複数のファクタリング業者に売却するところが出てくる可能性もあります。
こういった行為は詐欺罪に問われる可能性が非常に高いため、普通の取引先では行わないと考えられます。
しかし、詐欺的にでも現金を用意したい取引先は、後先を考えず行う可能性も否定できません。
このような取引先があった場合、
といった可能性があります。
このような場合、どのように対応したらいいのでしょうか。
まず、実際の取引がないような高額の債権の譲受を受けたという通知に対しては、発生していない金額を支払う必要はありません。
あくまで実際に発生した範囲で支払えばよく、発生していない部分の売掛金を売買したと言われても、存在していない以上は支払う必要がありません。
次に、1つの債権に対して、複数のファクタリング業者から請求があった場合には、どのようにしたらいいでしょうか。
この点については、民法に一定の定めがあります。
民法467条1項では、
債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む)は、
譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、
債務者その他の第三者に対抗することができない。
と定められています。
つまり、「債権の譲渡の通知」は譲り渡した取引先が通知する必要があるのです。
「譲り受けた」というファクタリング業者の名前で通知があっても、それだけで債務者(つまり売掛金を支払う側)に対抗できないということです。
また、民法476条2項では、
前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、
債務者以外の第三者に対抗することができない。
と定められています。
「債権譲渡を受けた」というファクタリング業者が複数ある場合、
その業者間の関係では、確定日付のある証書で通知等がされていなければ、
他の業者に対して優先すると主張できないということです。
一般的によく使われる確定日付のある証書とは、郵便局の内容証明郵便がありますので、債権譲渡の通知は内容証明郵便で行われることが多いです。
「譲り受けた」というファクタリング業者の名前で通知があっても、それだけで債務者(つまり売掛金を支払う側)に対抗できないということです。
このような確定日付のある証書(内容証明郵便)が複数ある場合には、裁判例上、確定日付のある通知が債務者に届いた日時の先後によって決まるとされています。
また、確定日付のある譲渡通知が同時に債務者に到達した場合には、
裁判例上、
各譲受人は債務者に対して、それぞれ全額の請求をすることができる
とされています。
どのように支払うか否か判断が難しい場合もありますので、注意が必要でしょう。