弁護士 杉浦 恵一
弁護士 杉浦 恵一
法人という形態の中で、おそらく一番多い形態は「株式会社(有限会社を含む)」だと思われます。
「法人」と「法人の役員」は別々の主体ですので、法人に何らかの責任があるからといって、当然に役員個人が責任を負うわけではありません。
例えば、法人に税金や社会保険料の滞納があったとしても、それをそのまま役員が支払う必要があるわけではありません。
(特殊な法律の規定によって、一定の場合に、役員が法人の税金や社会保険料を負う場合は有ります)
法人の中には、役員(社員)が一緒になって責任を負う形態の法人もありますが、株式会社や有限会社、その他の形態の法人は、一般的に、そのように役員・社員・理事が連帯責任を負う規定がなければ、連帯責任を負うわけではありません。
法人の代表者や役員等は、法人の借り入れの連帯保証人になっていることが多いかと思います。そのような場合、法人が借入金を返せなければ、役員等の個人が返済をしなければならなくなります。
このようなことが多いため、法人の代表者などは法人の負債を負ったり、法人の行為に責任を負わなければならないと思っている方もいるようですが、これは保証契約という別個の契約が、金融機関等の貸主と代表者・役員等の間にあるために、返済義務を負うことになっているだけで、法人の役員等となっているから返済義務を負うというわけではありません。
ただし、どのような場合にも、法人の責任を役員が負わないかというと、そうではありません。
例外的に、会社法では、429条1項に、「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」という条文があります。
この条文は、⑴ 役員等であること、⑵ 役員等の職務に関係すること、⑶ 役員等に悪意又は重大な過失があること、⑷ 第三者に損害が発生していること、を満たす場合には、法人の責任を個人が負うこともあります。
この条文の場合、役員等に「悪意」(損害の発生が分かっている場合等)や「重大な過失」(悪意と同じ程度に見られるような重大な不注意があること)がある場合に限られますので、簡単に認められるとは限らないのですが、企業経営をする上では、このような点にも十分注意することが必要でしょう。