建設アスベスト訴訟「一人親方」を高裁でも救済退職代行サービス
弁護士 杉浦 恵一
今年7月22日の日経新聞に、税滞納などへの対応のため、自治体が個人の口座情報を最短1日で確認するシステムを実験、運用するという記事が載っていました。
この記事では、従来は自治体が個人の口座状況を確認するために金融機関へ問い合わせると、紙媒体での問い合わせになり、数か月かかることも多かったそうです。
このシステムの目的は、自治体と金融機関の事務を軽減し、行政コストを削減することが目的ということですが、問い合わせできる内容が給与、年金の振り込み、公共料金や生命保険料の引き落としなども問い合わせできる見通しだということです。
企業活動を営む上では、様々な公租公課がかかってきます。例えば、法人税、消費税、法人の住民税、源泉徴収税の預かり、健康保険や厚生年金保険料といった社会保険もありますし、固定資産を持っていれば固定資産税も発生します。
消費税や固定資産税は、赤字でも発生しますし、源泉徴収・社会保険料は従業員がいればおそらく発生するでしょう。
小規模な企業でよくある場面が、資金繰りに苦しくなり、消費税や社会保険料の会社負担分などを滞納してしまうという場合です。
倒産する企業は、だいたいが税金をかなりの金額滞納していることが多いでしょう。
行政による差押え(「滞納処分」といいます)は、裁判などで勝訴しなくても、いきなり行うことができるという点で、民間の差し押さえとは異なります。
民間の個人・企業が差し押さえをするには、一般的には、まずは裁判で勝訴するなどの債務名義を得て、それを基に差し押さえる財産を特定し、裁判所に差押えの申し立てをして、初めて正式に差し押さえをすることができます。
しかし、行政の場合には、そのような手続きを踏まずに、いきなり行政からの通知で差押えをすることができます。
このような点で、行政と民間の間には、大きな違いがあります。
今回、自治体等から金融機関に対して、預金の有無の照会ができ、さらには給与、生命保険などの預金の出入金内容の照会もできることになりますと、行政の力はより強くなることになります。
仮に預金がなくても、生命保険料の引き落としがあれば、その保険会社に差し押さえをして、保険の解約返戻金を差し押さえられることになりますし、企業であれば、他の企業からの売掛金が定期的に入金されていれば、その売掛金を差し押さえられることになりそうです。
民間の場合、どこに財産があるか調べるだけで一苦労し、さらに裁判等をしなければならない手間がありますので、かなり大きな違いがあります。
逆に差し押さえられる方からすると、行政は今後、さらに容易にいろいろな財産を差し押さえることができますので、滞納にはより一層の注意が必要でしょう。