取引先がファクタリングをしていたらアルコールチェックの義務化と会社のリスク
弁護士 杉浦 恵一
中小企業庁の統計によれば、日本の中小企業は、2016年の時点で358万社あり、そのうち小規模企業が305万社だということです。
税金等の対策のために、自営業者から法人を設立し、中小企業となる場合もあろうかと思われます。
日本の中小企業数は、統計上は段々と減少傾向にあるようですが、
登記して活動実態のない休眠会社・ペーパーカンパニーもよくありますので、
今後も企業運営の実態のある会社は、継続的に設立されるものと思われます。
自営業者で、それまで家族を中心に事業を行ってきた事業者では、
法人を設立し、会社の形態になった際に、家族をその設立した会社の役員(取締役や監査役)にすることもよくあると思われます。
例えば、配偶者や親、兄弟、子供を役員にする例もあるでしょう。
自営業者のときには生活費として渡していたものを、会社になった場合には役員報酬として支払うようにすることもあるのではないかと思われます。
会社法330条では、
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
と定められています。
会社という形態にした以上は、会社という法人格がありますので、会社対役員という関係になってしまいます。
そのため、自営業者から会社を設立し、家族を役員とした場合に、金銭的に揉める可能性は考えておいた方がいいでしょう。
家族の仲がいい場合には問題ないとしても、
例えば夫婦であれば離婚の問題が出てきたときなどに、
会社と役員にした家族との間で、役員報酬などをめぐる対立に発展することがあります。
委任の規定として、民法648条1項で、
受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
とされていますが、税金対策などの面から、家族を役員にする場合、ある程度の役員報酬を支払うことにする場合が多いでしょう。
そうしますと、家族の仲が悪くなったとしても、一方的に役員報酬を切り下げたり、支給しなくなるのは難しくなります。
会社法では、339条1項で、
役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
と定められています。
そのため、個人事業から法人設立をした場合には、
個人事業を行っていた方が議決権全部を保有する株主になっていることが多いと思われますので、
株主総会の決議で役員を解任することが可能です。
しかし、会社法339条2項では、
前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
と定められています。
つまり、いつでも解任できるとしても、解任に正当な理由がなければ、会社は損害賠償(通常は残りの任期分の役員報酬相当額が考えられます)をしなければならない、ということになります。
これ以外には、役員報酬の支払い方の問題があります。
例えば親族に対して役員報酬を支払っていたとしても、
現金で支払われており、領収書をとっておらず、
きちんと支払ったかどうか証拠がない場合もあります。
役員となった親族との仲が良好なうちは問題がないとしても、
仲が悪くなり、役員を解任するという話になった際に、
役員報酬をもらっていない、未払があるとして役員報酬の支払請求がなされる可能性も否定できません。
支払ったことは、支払ったと主張する側が証明する必要がありますので、
領収書も何もないと結果として支払った証明がなく、未払であると認められてしまう可能性もあります。
親族を役員にすることで事業を拡大・発展させている会社もたくさんあるとは思われますが、
安易に親族だからということで役員にする場合には、後で揉める可能性もありますので、注意が必要でしょう。