アルコールチェックの義務化と会社のリスク株主総会における取締役の説明義務①
弁護士 杉浦 恵一
近頃、合同会社の社員権を売買する(出資を募る)会社の問題が指摘されています。
従来は、合同会社が自らの資金調達のために社員としての出資を募る行為は、金融商品取引業の登録をせずに行うことができました。
しかし、近年の社員権販売のトラブルにより、合同会社の業務執行社員以外の者(例えば単なる従業員、代理店など)が社員権の取得・購入の勧誘をする場合には、金融商品取引業の登録が必要となるように変更されました。
このような一種の投資トラブルは、以前から続いてきており、社員権という看板を付け替えただけで、基本的な仕組みは、何かを売るといって出資を募る仕組みと同じではないかと考えられます。
このような合同会社の社員権に関する問題が指摘されていますが、そもそも合同会社の社員権とはどのようなものなのでしょうか。
合同会社は、会社法に定められた「持分会社」の一種です。持分会社には、合名会社、合資会社、合同会社という3種類があります(会社法575条)。
このうち合同会社の場合には、社員の全部を有限責任社員としなければならないとされています(会社法576条4項)。
ちなみに、合名会社の場合には社員の全員を無限責任社員としなければならず、合資会社の場合には、社員の一部を無限責任社員とし、その他の社員を有限責任社員としなければならない、とされています。
持分会社は株式会社と異なり、定款で会社をどのように運営するか、かなり柔軟に決めることが可能です。
また、持分会社は、法人を社員(株式会社では取締役のような地位)とすることができます。株式会社では、法人を取締役にすることができませんので、このような点も大きく異なります。
このようなことから、持分会社は、比較的簡単に設立でき、会社の運営方法も株式会社のように会社法で厳密に定められているわけではないことから、ベンチャー企業などスタートアップで使われてることが多いと言われています。
そして、持分会社の中でも、合同会社は社員が有限責任であることから、特に多く使われているようです。
合同会社と株式会社の違いとして、社員の退社の制度があります。
株式会社では、出資をして株式を取得しますと、株主でなくなりたい、出資を払い戻してほしいと考えても、当然に株式会社から払い戻してもらえるわけではありません。
その株式を第三者に売却するとか、会社に自己株式として取得してもらうとか、何らかの対応が必要ですが、どちらも当然に行われるわけではありません。
これに対して、合同会社では、加入した社員は退社することができます。会社法では、任意退社(同法606条)と法定退社(同法607条)が定められています。
そして、退社をすると、持分の払戻しを受けることができると定められています(同法611条)。
これに加えて、持分会社では、出資の払戻を請求することができるとも定めらえています(同法624条1項、ただし方法は定款で定めることができる。同2項)。
このような株式会社とは異なって退社・払戻しの制度があることから、合同会社の社員権の募集、勧誘、販売といった際には、退社・払戻があることでいつでも出資を回収できるから安心だ、と言われているようです。
しかし、実際には、退社の方法に制限を加えていたり、払戻の方法や時期に大幅な制限を加えていたりして、現実には出資の払戻はされず、この点で大きなトラブルになることがあるようです。
合同会社の社員になるということは、株式会社でいえば株主や取締役になることに近い意味があります。
会社の社員になれば、それ相応に会社や取引先に対して責任を負い、また出資した金銭は元本などが保証されるわけではありませんので、よく分からない投資に安易に飛びつかないようにすることが重要でしょう。