弁護士 塚本 菜那子
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弁護士 塚本 菜那子
監査役など役員等は、その任務を怠ったとき、会社に対して、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。この責任のことを、一般に、監査役の任務懈怠責任と呼びます。
監査役の任務懈怠責任が認められてきた従来の裁判例を見ますと、監査役が取締役の任務懈怠行為を知りながら何もしていなかった事案、あるいは監査役自身が粉飾決算に関わったという事案が多くを占めます。
しかしながら、大阪高裁平成27年5月21日判決(平成26年(ネ)第317号、金融・商事判例1469号16頁)において、代表取締役が取締役会の決定に反した行動をとったことに対して、取締役会において疑義を表明し、事実関係の報告を求めるなどしていた監査役について、任務懈怠責任を認める判決が出されました。
これは、いわば仕事を全くしていなかった上記従来の裁判例の監査役とは異なり、仕事をしていた監査役に任務懈怠責任を認めるもので、どのような場合に監査役の任務懈怠責任が認められるのか考えるにあたっては、重要な判決であるといえます。
上記大阪高裁判決の内容を簡単にまとめますと、以下のとおりです。
A会社の監査役は、1人の代表取締役の任務懈怠行為を認識していました。これに対して、その監査役は、取締役会において疑義を表明し、事実関係の報告を求めました。しかし、それ以上に、取締役会に対し、取締役の任務懈怠行為に対処するための内部統制システムを構築するよう勧告せず、任務懈怠行為に及んだ代表取締役を解職すべきである旨の勧告もしませんでした。よって、当該監査役には任務懈怠責任が認められるというものです。
上記判決が、内部統制システムの構築や代表取締役の解職まで勧告すべきであったと判断した理由は明示されていません。
しかし、考えられる一つの理由としては、A会社において、日本監査役協会の「監査役監査基準」に準拠した監査役監査規定(以下、「本件監査役監査規定」といいます。)が定められていたことが挙げられます。
本件監査役監査規定では、内部統制システムの改善を勧告すること、取締役会決議その他行われる取締役の意思決定に関して勧告すべきことが定められていました。そのため、本件監査役監査規定に基づき、監査役は取締役会に対し内部統制システムの構築や代表取締役の解職までも勧告しなければならなかったとされたものと考えられます。
会社法338条1項は、監査役が取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べなければならないと規定します。
この意見の範囲には制限は設けられておらず、かえって積極的に意見を述べることが求められていると解されています。しかし、それでも、会社法に基づき、少なくとも代表取締役の解職まで勧告することまで想定されてこなかったと考えられています。しかし、上記判決のように、監査役監査規定といった特別の定めがあるときは、会社法ではこれまで想定されてこなかったような義務が監査役に課される可能性があります。
監査役にどこまでの義務が課されているのか或いは今後課していくのか、もう一度、会社の規定を見直してみるのがよいのではないでしょうか。