本稿では、役員の説明義務の程度が問題とされた過去の裁判例につき、ご紹介していきます。
具体的にどのような場合に説明義務の違反となるかは事例判断とならざるを得ないため、皆様の判断の一助になればと思います。
弁護士 岩崎
本稿では、役員の説明義務の程度が問題とされた過去の裁判例につき、ご紹介していきます。
具体的にどのような場合に説明義務の違反となるかは事例判断とならざるを得ないため、皆様の判断の一助になればと思います。
近時の裁判例として参考になるものとして、東京地判平成24年7月19日判決があります。
この裁判例では、役員の説明義務違反が株主総会決議の取消事由として争われた事案ですが、この点につき、裁判所は、「決議事項の内容、株主の質問事項と当該決議事項との関連性の程度、質問がされるまでに行われた説明の内容及び質問事項に対する説明の内容に加えて、質問株主が保有する資料等も総合的に考慮して、平均的な株主が議決権行使の前提として合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明をする義務を負うものと解するのが相当」と判断しています。
この裁判例のポイントとしては、①なされた説明単体を見て判断するのではなく、質問事項と決議事項の関連性や質問までに行われた説明の程度、質問株主が保有する資料等を総合的に踏まえて判断すべきとしています。
②また、説明の程度が十分か否かについても、平均的な株主を基準に判断すべきとしています。
そのため、説明義務の程度としては、あくまで当該質問株主が納得したかどうかではなく、他の株主において合理的な理解ができているかどうかが重要になると思われます。
また、少し古い裁判例とはなりますが、取締役の説明義務と一括回答の是非が争われた裁判例として、東京高判昭和61年2月19日判決があります。
この事案では、定時株主総会における役員選任等の決議の取消しが求められたもので、一括回答は、取締役の一方的説明であり、質問者にとっては自分の質問に対する説明があったのかわからないから説明義務の程度として不十分だと争われました。
この点につき、裁判所は、まず役員の説明義務について「取締役等の説明義務は総会において説明を求められて始めて生ずるものであることは…(法律の規定の文言から)明らかであり、…予め会社に質問状を提出しても、総会で質問をしない限り、取締役等がこれについて説明しなければならないものではない」として、説明義務が生じる場面を明確にしました。そのうえで「説明の方法について商法(現会社法)は特に規定を設けていないのであって、要は前記条項の趣旨に照らし、株主が会議の目的事項を合理的に判断するのに客観的に必要な範囲の説明であえば足りるのであり、一括説明が直ちに違法となるものではない。」として、説明の方法に制限を課しませんでした。
また、同判決では「さらに、たとえ一括説明によっては右必要な範囲に不十分な点があったとすれば、それを補充する説明を求めれば足りる」とし、あくまで、株主側経営者側双方の事情に照らした判断をすべきとしています。
経営者の方にとっては、株主総会での説明の問題は、切っても切れない問題かと思います。
実際に株主の方から総会決議の効力が裁判で争われ、決議が取り消される事態にまで発展しないかもしれませんが、役員としては説明義務という責任を負っているという点は無視してはいけないと思います。
上記「1」の裁判例でも判断されているとおり、あくまで基準は平均的な株主であって、当該質問者を納得させる必要まではありません。
ここはある種割り切った判断が必要になるかもしれませんね。