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株主総会 議決権の事前行使と総会当日の出席
2019年10月、東京高等裁判所で、株主総会の決議に関して、株主が事前に議決権の行使をしていたけれども、株主の代理人が株主総会に出席した上で、株主総会当日には投票をしなかった場合に、それが投票の棄権と扱われるのか、それとも事前に議決権を行使した内容が維持されるのかをめぐって、判決が出されました。
事案の概要としては、報道では、上場企業の株主総会で、総会に出席した株主から突然、業績の低迷を理由に一部を役員から外し、新たな社外取締役候補を含む役員選任を求める修正動議を提出したところ、その動議が可決された、という事案のようです。
● 株主総会における投票の棄権
この際に、大株主であった機関投資家(銀行や生命保険会社などの株主)が、事前に会社提案に賛成する旨の議決権行使書面を出していたものの、当日、代理人も出席させていたという事実関係があったようです。
この株主の代理人は、修正動議に対して、投票しなかったり、当日配布された白紙の投票用紙を戻したりしており、これが「投票の棄権」に当たるかどうかが争われた裁判だとのことです。
一審の東京地方裁判所は、このような行為を投票の棄権と判断しましたが、東京高等裁判所は、逆に、株主の代理人が事前に送られていた議決権行使書に記載された意思表示とは異なる内容での議決権を行使する意思を有していないことは明らかであるとして、代理人を出していた株主は、会社提案には賛成し、修正動議には反対していたと判断したとのことです。
● ルールがない部分では結論が変化する可能性がある
株主総会には、一定のルールがありますので、明文のルールがあればそれに従いますが、明文のルールではないものは、解釈の余地があり、たびたび争いになることがあります。
株主総会では、原則として、議決権を有する株主の過半数が出席することで開催され、そのうち過半数の議決権の賛成があれば、その議案は可決・承認され、効力が生じることになります。
投票の棄権があった場合に、どのような影響があるかと言いますと、出席しているため、その株主の議決権は株主総会が開かれるかどうかの議決権には算入されます。しかし、投票を棄権しますと、その議案の賛成・反対の決議に参加していないということになりますので、賛成が過半数を割り込み、議案が可決・承認されないという場合が出てきます。
そのため、棄権する議決権の数が多い場合や、賛成と反対がかなり拮抗している場合には、一部の株主が棄権扱いになるかどうかで、株式総会の結論が変わってくる可能性があります。
● 代理人の出席をどのように判断するか
今回、機関投資家が、事前に議決権行使書面を提出していたにもかかわらず、代理人を出席させているのは、おそらく議決権を行使させる趣旨ではなく、株主総会当日の様子を見て来させる目的であったと思われます。
そのような場合、機関投資家の代理人として出席している人は、その投資家(会社)の従業員が多いのではないかと予想されますが、単なる従業員に、修正動議に賛成するか、反対するかといった難しい判断を、その場でする権限はないと考えられます。
そういった意味で、総会に出席した代理人は、事前に議決権行使の書面が送られていることもあり、特に何もしなかった(見学等にとどめた)のではないかと予想されます。
一部の会社で株主総会の日が集中し、重複することもありますので、決定権限のある人が機関投資家から全ての投資先の株主総会に出席するのは無理があると思われます。一般的には、株主総会当日まで投票内容を変更できると考えられますので、代理人が事前の議決権行使の書面とは異なる内容で投票することも可能ですが、一般の従業員にそのような判断は難しいと思われますので、こういった裁判所の判断もやむを得ない側面があるでしょう。