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債務不履行における損害拡大防止義務

債務不履行と損害拡大防止義務のポイント - 企業法務の視点で解説

はじめに

契約の当事者同士の間などで債務不履行が発生した場合、これによって損害を負った者は、債務不履行による損害の賠償を請求することができます。

どのような損害の賠償が認められるかは民法416条に以下の規定があります。

民法 第四百十六条 (損害賠償の範囲)

  1. 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
  2. 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

1項を見ますと、「通常生ずべき損害」といえるものについては、特に制限なく賠償請求が認められるようにも見えます。

しかし、「通常生ずべき損害」に該当する場合であっても、その全額の賠償請求を認めるべきではない場合があるのではないかという議論があります。

損害拡大防止義務

損害拡大防止義務・損害軽減義務(以下では損害拡大防止義務に統一します。)とは、債務不履行に遭った債権者が、損害が不必要に拡大しないように、損害の拡大を防止・あるいは軽減すべき義務があるのではないかという考え方です。

通常生ずべき損害の範囲を決めるにあたって、このような考え方を背景に、債権者が合理的な行動をとっていれば防ぐことができた損害については、通常生ずべき損害であったとしても賠償請求を制限すべきではないかという議論があります。

このような議論を前提に判断をしたと考えられる最高裁判所の判決があるので、紹介します。

最高裁判所平成21年1月19日判決

事案の概要(本稿の紹介に必要な程度に簡略化しています。)

 ビルの所有者であるYから、店舗部分を賃貸してカラオケ店を経営していたXが、平成9年2月12日に発生した同ビル内の浄化槽設備の不良・故障事故によって店舗部分が浸水したところ、Yが修繕の義務を怠っていることによって、カラオケ店の営業ができなくなっており、営業利益の喪失による損害を負っているとして損害賠償を請求している事案です。

 なお、Xは、カラオケ店で使用する設備什器についての保険に加入しており、損害保険金、臨時費用保険金及び取片付費用保険の支払いを受けていました。

 原審は、事故の1か月後である平成9年3月12日からXの請求している平成13年8月11日までの営業利益の喪失による損害賠償を認めていました。

最高裁判所の判断内容

 最高裁判所は、「事業用店舗の賃借人が、賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には、これにより賃借人に生じた営業利益喪失の損害は、債務不履行により通常生ずべき損害として民法416条1項により賃貸人にその賠償を求めることができると解するのが相当である。」としながらも、

 ①本件の5年前頃から店舗内の浸水は頻繁に発生していたこと、②ビルは事故発生当時において建築から約30年が経過しており、老朽化による大規模改装等が必要となっていたこと、③YはXに対して事故直後に賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、退去を求めていたこと、本訴訟が事故から1年7カ月経過後の平成10年9月に提起されていること等から、

 Yが修繕をしたとしてもXがそのまま店舗を長期的に利用できたとは考え難く、訴訟提起の時点ではXが本件のビルでの営業は実現可能性が乏しくなっていたとし、さらにXは保険によって再びカラオケセット等を整備するのに必要な資金の相当部分を取得していたとして、

 「遅くとも、本件本訴が提起された時点においては、(X)がカラオケ店の営業を別の場所で再開する等の損害を回避又は減少させる措置を何ら執ることなく、本件店舗部分における営業利益相当の損害が発生するにまかせて、その損害のすべてについての賠償を(Y)に請求することは、条理上認められないというべきであり、民法416条1項にいう通常生ずべき損害の解釈上、本件において、(X)が上記措置を執ることができたと解される時期以降における上記営業利益相当の損害のすべてについてその賠償を(Y)に請求することはできないというべきである。」と判示し、原審に差し戻しました。

判決の内容について

 判決でも触れられている通り、ビルの賃貸人が本来行うべき修繕を怠り、その結果賃貸部分が利用できずに、カラオケ店の営業ができなくなっているということからすれば、Xの損害賠償請求が全額認められてもよさそうですが、裁判所はこれを認めませんでした。

 Xが、他のテナントなどでカラオケ店を営業する等の対応をしなかったこと、Xには保険金があり、それが現実的に可能であったと思われることに加え、ビルの状況から、いずれにしても本件のビルで長期的に営業することが困難であったこと等、本件に特有の事情があることには注意が必要ですが、

 契約の相手方などが債務不履行に陥った場合であっても、損害を不必要に拡大しないために合理的に取りうる手段を怠っている場合には、全額の損害賠償請求が認められない可能性があるという点で参考になると思われます。

おわりに

2つのテーマとも講演後に質疑応答の時間を設けましたところ、皆様より活発にご発言をいただきました。

本稿では、損害賠償請求における損害拡大防止義務について紹介しました。

債務不履行等によって生じた損害を賠償すべきことは当然ですが、損害の賠償を受けられる立場であるからといって、合理的に損害の拡大を防止するためにできることがあればそうすべきということで理解はしやすいのではないかと思われます。

なお、損害拡大防止義務については、判例や学説等で固まった見解等があるわけではないので、必ずしも損害拡大防止義務を前提にした判断がなされるわけではありませんし、どこまでの防止措置が求められるかについても、はっきりとしたものがあるわけではありません。

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