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新型コロナウイルス感染症5類への移行と企業の対応

新型コロナウイルスの影響により、労働環境は大きく変動したといえます。
厚生労働省は、令和5年3月13日以降マスク着用の運用の見直しを行うことを発表し、同年5月8日から新型コロナウイルスは5類に移行することになりました。

そのため、今後はこれまでと違った新型コロナウイルスとの関わり方が必要になると思われます。

1. マスク着用の運用の見直し

れつ

⑴ マスク着用の運用の変更

これまでは、屋内においてマスクの着用を原則としておりましたが、令和5年3月13日から、マスクを着用するかどうかは個人の判断によることになりました。

企業ではたくさんの方が一緒に働いています。
「個人の判断」というのは言葉では簡単ですが、マスクを着けたいという人にとってはマスクを外されることに関し嫌悪感を抱くことはあり、他方、マスクを外したいと思う人にとってマスクの着用を強制することはできません。

この点の取り扱いが、今後難しくなっていくものと思われます。

⑵ マスクの着用と労務問題

上記のようにマスク着用の運用は変更となりましたが、社内において方針を定めることはあると思います。
では、仮に企業においてマスク着用を推進していたところ、従業員がマスクの着用に応じない場合、かかる従業員を解雇することはできるのでしょうか。

新型コロナウイルス対策の不履行等を理由とする解雇の有効性が争われた事案として、大阪地方裁判所令和4年12月5日判決(判例タイムズ1505号163頁)があります(退職合意の有効性等の論点は割愛いたします。)。
この事案は、会社において「新型コロナウイルス感染症対策」に関する文書、その後も定期的に文書を発出するなどして感染症対策の徹底を依頼していたところ、緊急事態宣言の状況下においてマンションの管理人として勤務していた従業員がマスクの着用をしませんでした。

そのため、会社において、当該従業員に対し、マスクの不着用により居住者に不安を抱かせたこと、恒常的な勤務中のマスク不着用により住人から苦情申出がなされていることなどを理由に解雇したところ、その有効性が争われた事案になります。

この点に関し、裁判所は、会社の業務がマンションの管理等であるところ、新型コロナウイルス禍において会社が管理するマンションの住民に不安を与えないようにすることが業務の遂行において必要であり、従業員に対して感染防止対策の徹底を求める通知を繰り返し発出し、マスク着用等の徹底を求めていることからすれば、会社の従業員は使用者である会社の指示に従って業務を遂行する際には新型コロナウイルス感染症対策を徹底しながら職務を遂行する義務を負っていたとして、日常的にマスクを着用していなかった当該従業員は、会社の業務上の指示に従っていなかったとしました。

しかし、当該従業員が過去に会社から同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、潜在的に当該従業員のマスク不着用に関し不快感や不安感を抱いていた住人がいたとしても現実に会社に寄せられた苦情は1件にとどまっていること、当該従業員のマスク不着用が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、課長の立場に当たる人も当該従業員に対しマスク不着用に関する注意をしていなかったこと、当該従業員が新型コロナウイルスに感染したことによりクラスターが発生したなどの事態は生じていないことなどから、当該従業員の行為は、規律違反には当たるものの、同事情をもって解雇することが社会通念上相当であるとまではいえないと判断し、本件解雇は無効としました。

本裁判例においてもそうですが、新型コロナウイルスの感染経路として飛沫感染が挙げられ、いわゆる三密の回避が求められていた状況下において、マスクの着用が感染防止田対策の一環として有効なものであるということができ、対面で接する顧客に対し不安感・不快感を与えないという観点からすれば、今後もマスクの着用を求めることにつき合理的かつ相当な業務指示であるとはいい得ると思います。

もっとも、本裁判例においても否定をされましたが、労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には解雇は無効となります。

本裁判例では、過去に当該従業員に注意・指導等を取っていなかったことが解雇を無効と判断した重要な要素といえますが、本裁判例はあくまで緊急事態宣言下における判断になります。

現在は政府によりマスクを着用するかどうか自体個人の判断によることになっておりますので、今後マスクの不着用による解雇は相当難しいのではないかと思われます。

2. 5類への移行

新型コロナウイルスは5類になりましたが、新型コロナウイルスに感染した、または発熱などの症状がある労働者を事業者の判断で休業させる場合、休業手当の支払いは必要になるでしょうか。

こちらは厚生労働省が公表している「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け」が参考になると思います。

この点に関し、政府は、「新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症に変更されましたが、休業手当の支払義務の考え方について変更はない」としています。

そのため、発熱などの症状があることのみをもって一律に労働者に休んでもらう措置をとる場合のように、使用者の自主的な判断で休業させる場合には、一般的には「使用者の責め帰すべき事由による休業」(労基法26条)にあたり、休業手当を支払う必要があることになります。

なお、新型コロナウイルスに感染したまたは発熱などの症状がある労働者が自主的に休む場合には、通常の病欠と同様に取り扱い、病気休暇制度を活用することも考えられると思われます。

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