弁護士 小原将裕
弁護士 小原将裕
事業譲渡とは、株式会社が事業を取引行為として他に譲渡する行為を意味します。通常は売買契約により譲渡します。
ここでいう「事業」の意義は、難解ですが、判例の定義を踏襲すると、「一定の事業目的のために組織化され、有期的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた事業活動の全部または重要な一部を受け継がせ、事業会社がその譲渡の限度に応じ法津上当然に競業避止義務を負う結果を伴うもの」と説明されます。
事業譲渡を行うためには、取引条件や譲渡の効力、手続等が明記された事業譲渡契約を締結します。交渉が長期間にわたり、業務の詳細やリスクを調査し、秘密情報にアクセスすることがありますので、交渉に先立って覚書を締結し、デューデリジェンスを実施することもあります。
事業譲渡にあたって、譲渡会社、譲受会社のそれぞれで取締役会の決議を要します(会社法362条4項1号)。
また、譲渡会社では株主総会の特別決議が原則として必要です(会社法467条1項1号、2号)。例外として、事業対象資産の帳簿価額が譲渡会社の総資産額の5分の1を超えない場合(簡易事業譲渡、会社法467条1項2号)や、親会社が事業譲渡を行う子会社の議決権の90%以上を有する場合(略式事業譲渡、会社法468条)については、株主総会決議が不要となることがあります。
事業譲渡の対象が譲渡会社の事業の全部にあたる場合、譲受会社でも、原則として株主総会の特別決議が必要となります(467条1項3号)。例外として、対価として交付する財産の帳簿価格が、譲受会社の純資産の5分の1を下回る場合(簡易事業譲受、会社法468条2項)は株主総会決議が不要となることがあります。
事業譲渡の場合、合併等と異なり、必要な事業単位で個別に財産や契約関係が移転することになります。事業と無関係な債務については切り離されます。承継される財産等の範囲は、契約書で明確に定められる必要があります。
労働契約についても、当然に承継されるわけではなく、個別の同意が必要になります。
その場合、どのような条件で譲受会社と雇用契約を締結するのか、事前に労働者、譲受会社の合意を得ておく必要があります。通常は、効力発生日の前日に譲渡会社を退職し、効力発生日に譲受会社に雇用されることになります。
ただし、譲受会社が労働契約を承継しないため、余剰人員が発生してしまう場合があります。その場合、譲渡会社において処遇を決めなければなりません。退職勧奨や希望退職制度の実施をすることが多く、場合によっては整理解雇も視野に入れることになります。
債権債務についても、移転を争われないよう、民法所定の手続をとる必要があります。事業に伴い債権を移転させる場合、債務者に対して、譲渡会社から確定日付付き債権譲渡通知を送付しなければ、譲受会社は権利移転を主張することができません。また、事業に伴い債務を免責的に移転させる場合、債権者から、譲受会社が免責的債務引受けをすることにつき承諾を得なければ、譲渡会社は免責を主張できません。