弁護士 杉浦 恵一
はじめに
世の中には、取締役が1人だけの会社や、株主が1人だけの会社も相当数が存在していると思います。
こういった会社は、個人事業を法人化させた会社が大多数だと思いますが、そのような場合、取締役が1人で、かつ株主もその取締役1人という会社だと想像されます。
会社運営と相続がからむ問題として、1人だけしか取締役・株主がいない会社で、その取締役または株主が亡くなってしまった場合、どうしたらいいか、という問題があります。
取締役が1人の場合
まず、取締役が1人しかおらず、その取締役が亡くなってしまった場合ですが、このような場合には最終的に会社を運営する権限のある人がいなくなってしまいます。
株主が別にいれば、臨時の株主総会を開き、新しい取締役を選任することになります。
株主が1人の場合
次に、株主が1人しかおらず、その株主が亡くなってしまった場合ですが、このような場合には、最終的に会社をどうするか決める権限のある人がいなくなってしまいます。
ただし、別に(代表)取締役がいる場合には、株主総会を開いて役員を選任するなど、株主総会を開かなければできないことは無理ですが、日常の会社業務、つまり契約や製造、出入金、雇用といったことは代表取締役が引き続き行うことができます。
1人しかいない株主が亡くなってしまった場合には、別にいる取締役が会社の業務を行いつつ、株主の相続人が会社の株式の相続を終えるまで、その状態が続きます。
取締役と株主が1人だけで、同一人物の場合
では、取締役と株主が1人だけで、同一人物であるときに、その人が亡くなってしまったら、会社はどうなるのでしょうか。
このような場合でも、会社は会社で法人格という人格を持っています。
そのため、株主兼取締役が亡くなってしまっても、会社自体は存続します。
しかしながら、日常の出入金といった取引ができなくなりますと、支払いをしていないなど、債務不履行責任を追及され、実質的には倒産状態になってしまうかもしれません。
このような場合ですが、株主の相続人が1人だったり、揉めていない場合には、株式を相続する人だけ速やかに決め、株主総会を開き、新しい代表取締役を決めることで、会社運営を再開することが可能です。
他方で、相続人が揉めていて株式を誰が取得するか決まらない場合には、問題が深刻化します。
このような場合には、取締役の一時職務代行者の選任を裁判所に申立て、誰かを仮の代表取締役として一時的な会社運営をしてもらうしかなさそうです。
この申立には、よほど会社にお金の余裕がない限りは、通常、職務代行者の何か月分かの報酬を裁判所に予納する必要がありますので、申立てる方には相応の負担がかかってきます。
まとめ
このような事態にならないよう、1人しか取締役・株主がいない会社は、事前に準備をしておいた方がいいでしょう。