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2024年8月19日
名古屋総合法律事務所
弁護士 杉浦恵一
最近では、AI(人工知能)が着目されており、第二の産業革命になるのではないかとも言われております。AIが使用される産業の範囲は非常に広いようなのですが、2022年後半にチャットGPTのサービスが開始されてから、一般消費者でも比較的簡単に生成AI(文章、画像、音声等の成果物を人工知能を用いて作り出すことができる技術)を使用することができるようになってきています。今では、企業でも生成AIを導入するところが増えてきているのではないかと思われます。
このような生成AIの普及により、弁護士の仕事はどのようになっていくのでしょうか。場合によっては、弁護士の仕事は生成AIにとって代わられてしまうという意見もあるようです。
この点について、生成AIの進歩・発達によっては弁護士の業務が少なくなる可能性は十分あるとは思いますが、現状の生成AIの仕組みや性能からすると、当面の間、弁護士の業務が全て生成AIに代替されることはなさそうに思われます。
その理由を挙げていきたいと思います。
チャットGPTなどの生成AIを使用されたことがある方はお分かりだと思いますが、生成AIに文書等を出力させたり、回答を求めるためには、何をするのか指示をする必要があります。
回答の内容や生成された画像等が想定したような内容ではなかったり、期待するような内容ではなかったりした場合もあるのではないかと思われます。
期待した内容や想定した内容に近づけるには、指示をより具体的に、的確に行う必要があります。そうしますと、法的な問題に関しては、指示をする側にも一定の法的な知識が必要になってくる場合があります。
このように、そもそも指示や質問をする前提としてある程度の法的知識を必要とする場合がありますので、現在の生成AIの性能として聞いたことしか答えられないということでは期待するような回答が得られないという問題もあります。
最近のニュースで、アメリカの弁護士が法廷に提出した書面に、存在しない架空の裁判例が引用されており、その架空の裁判例はチャットGPTを利用して出てきた、というものがありました。
生成AIが回答したり、文書等を生成する仕組みとして、一定の蓄積されたデータから学習等をして、それらしい回答を作成する、というもののようです。
AIはあくまで蓄積・学習したデータからそれらしい回答を作るという機能であり、それが正しいかどうかは蓄積・学習したデータが正しいかどうかにもよってくるようです。
つまり、事前に蓄積・学習したデータが間違っている場合には、AIがそれを基に作成した回答等も間違っているという可能性が十分考えられます。
上に挙げた例では、実際に存在しない架空の裁判例が回答・出力されてしまったということで、現時点の生成AIの能力では、まだ間違った回答がされることが十分に考えられます。
そうしますと、生成AIを十分に使用する上では、少なくとも使い手側に生成AIよりもその分野に関して知識があり、生成AIの回答等が合っているか、間違っているか判断する能力が求められることになります。
このような判断が使い手側に求められるということは、法律の分野ではそのような判断が可能な弁護士の業務がなくならないことにつながります。
生成AIは、あくまで指示されたことを、その機能で可能な範囲内で実行することになります。そうしますと、生成AIの方で、指示された内容の善悪や倫理的な問題を判断することができず、危険な利用のされ方や、そもそも効果のない回答をしてしまうという可能性があります。
最近では改善されているようですが、以前の生成AIでは、画像を生成する際に著作権を侵害するような画像を生成していたことがあるようです。
生成AIはこれまでのデータの蓄積・学習から判断しますので、著作権のある画像を大量に蓄積・学習していれば、著作権を侵害していてもそのような画像を生成してしまうということがあったようです。
(例 ネズミの絵の作成を指示すると、某テーマパークのネズミキャラクターの画像が出力される)
これは、法的な点でも出てくる可能性があります。
例えば、日本国憲法18条では、「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。」と定められています。憲法は原則として国家を拘束するものですが、この条文は、個人、私人の間でも適用されると解釈されています。
このような条文があることを前提に、例えば誰かが「奴隷契約書」なる契約書の作成を生成AIに指示したと仮定しますと、一般に使える生成AIで検証したわけではありませんが、実際にその人が希望するような内容の「奴隷契約書」が作成され、出力されてしまう可能性があります。
しかし、上でも述べたように、奴隷的拘束は憲法上禁止されていますので、当然、奴隷契約も禁止、無効となります。
つまり、生成AIが出力したものが自分の希望にかなっていたとしても、それによってその生成物・作成物が正しく、倫理的に問題がないこと、有効であり、禁止・無効とならないことは保証されていないということが言えます。
このような点がありますので、生成AIが普及したとしても、現在の生成AIの能力・機能からすると、当面先まで弁護士業務がなくなることはなさそうです。
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