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フリーランス新法が公布されました

弁護士 田中 優征

疑問

はじめに

令和5年5月、いわゆる“フリーランス新法”が公布されました。

この法律は、遅くとも令和6年11月までに施行されます。

本稿では、その内容や注意点について解説します。

フリーランス新法とは

副業など、働き方が多様化していく時代の流れとともに、フリーランスの数は増加していると言われており、総務省の作成した令和4年就業構造基本調査では、本業がフリーランスの人の数は209万人に及ぶとされています。

フリーランスが企業や団体などから依頼を受けて仕事をする際、その契約形態は、民法上の委任契約や請負契約に該当することが一般的です。

日本においては、労働契約(雇用契約)の場合には、労働者として手厚い保護が受けられる一方、委任契約や請負契約にはそのような保護はありません。

そのため、報酬の支払い遅滞や不払い等、不当な取り扱いを受けるというトラブルが起きたり、従業員等を雇わずに一人で業務を行っているような人は、納期を守るためには自分一人で稼働し続けなければならないといった問題もあります。

このような背景から、フリーランスとして働く方に保護を与えることで安定的に働くことを可能にするためにできたのが、いわゆるフリーランス新法です。

(なお、委任契約などの形態をとりながら、実態としては委任者の指揮命令下にあるような場合には、実質的に労働契約としての保護が与えられる余地がありますが、本稿においては取り扱いません。)

対象

上記のような問題背景があるため、フリーランス新法の適用対象になるのは、他の事業者から、その事業のために、物品の製造・情報成果物の作成の委託や役務の提供の委託を受ける事業者の内、
① 従業員がいない個人
② 代表者一人を除いて他の役員や従業員がいない法人
のどちらかです。

このような事業者は、フリーランス新法においては、「特定受託事業者」と呼ばれます。

なお、ここでいう従業員とは、週20時間以上 かつ 31日以上の雇用が見込まれる者を想定していると説明されています。

つまり、フリーランス事業者が、一時的に他者を雇って事業を行う場合であっても、フリーランス新法の適用対象になる場合があるということになるので、注意が必要です。

これに対し、業務を委託する側の事業者については、法の適用自体には限定はありませんが、以下のように分類され、分類によって適用される範囲が異なります。

⑴ フリーランス事業者に業務を委託する事業者すべて
⑵ ⑴の内、従業員または代表者以外の役員がいるもの
⑶ ⑵の内、継続的に発注する場合

内容

フリーランス新法の内容につき、前記の分類に従って説明します。

⑴ 適用対象のフリーランス事業者に業務を委託する事業者すべてに適用されるもの

・取引条件の明示

フリーランス事業者に業務を委託した場合には、直ちに、給付の内容・報酬額・支払期日などの事項を書面・電磁的方法により明示しなければなりません。

⑵ 適用対象のフリーランス事業者に業務を委託する事業者の内、従業員または代表者以外の役員がいる事業者に適用されるもの

・報酬の支払期日について

報酬について、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできるだけ短い期間内で報酬の支払期日を定め、それまでに報酬を支払わなければなりません。

なお、報酬の支払期日を定めない場合には、物品等を受領した日が、物品等を受領した日から60日を超える日を支払期日にした場合には、受領した日から60日を経過した日の前日がそれぞれ支払期日になります。

・募集条件の的確表示

広告などにより、募集情報を提供するときには、虚偽や誤解を生じさせる表示をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。

・ハラスメント防止体制

いわゆるセクハラやパワハラ等について適切に対応するための体制の整備その他必要な措置を講じなければなりません。

⑶ ⑵の内、継続的に業務を委託する事業者に適用されるもの

・遵守事項

フリーランス事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、物品等の受領を拒むこと、報酬を減額すること、返品を行うことや、内容の変更・やり直しをさせることをしてはなりません。
また、不当に低い報酬額を定めたり、正当な理由なく自己の指定する者の購入等を強制することや、金銭、役務その他経済上の利益を提供させてはなりません。

・育児介護等への配慮

フリーランス事業者からの申し出に応じ、育児介護等と業務を両立できるように必要な配慮をしなければなりません。

・中途解除の予告

中途解除や、更新しない場合には、少なくとも30日前にその旨を予告しなければなりません。また、予告の日から契約満了までにその理由の開示を請求された場合には、これを開示しなければなりません。

違反行為について

適用対象のフリーランス事業者が、フリーランス新法に違反していると考えた場合には、その内容に応じて、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の窓口に申告することができるようになります。

申告を受けた行政機関は、委託事業者に報告をさせたり、立入検査の実施や、指導・助言、勧告等をすることができます。

勧告に従わない場合に出される命令に違反した場合には、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

終わりに

フリーランス新法の施行後は、フリーランス事業者に業務を委託する場合には、フリーランス新法の適用がある可能性があるので注意が必要です。

今後は、当該委託先のフリーランス事業者がフリーランス新法の適用対象かどうかを確認したうえで、適用対象である場合には、自社が前記⑴から⑶のどの分類に該当するかを確認し、分類に従った事項を遵守できるように体制を整えていく必要があると思われます。

なお、フリーランス新法上は適用対象外であったとしても、上記のような事項を遵守できるように体制を整えておくことはトラブル防止の観点から有益であると思われます。

フリーランス新法の施行を機に、フリーランス保護という観点から、業務委託先との付き合い方を再考してもよいかもしれません。

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