新型コロナウイルス感染症の対策のうち、企業など事業者への支援として、いわゆる「ゼロゼロ融資」(新型コロナウイルス感染症の影響で売上が減った企業等に対して、実質的無利子・無担保で資金の貸付を行うこと)が行われてきました。
その件数・融資金額は、一説によれば約244万件の企業等に対して行われ、融資総額は約42兆円に達しているそうです。平均すると1件当たり1700万円ほどになりますが、この返済が2023年夏頃から始まってくる企業が多いようです。
東京商工リサーチの調査・アンケートによれば、中小企業の約3割が債務が過剰であると回答しているということで、このようなゼロゼロ融資が返済できるのかどうか、将来的には問題になる可能性はあります。
実際に、帝国データバンクによれば、2023年2月の企業倒産件数(負債1000万円以上の法的整理を対象に集計)は574件となり、10か月連続で前年同月比で増加しているそうです。
このような状況からしますと、ゼロゼロ融資の返済が始まった場合に、その融資された借金の返済ができない企業等が相当数出てくることも否定できないと思われます。
しかし、借金の返済ができず、滞納することで、それにより直ちに企業は倒産(法律上は「破産」)となるのでしょうか。
倒産・破産に関しては、破産法が破産の要件や、破産手続が開始された後の手続等を定めています。
破産が開始されるのは、裁判所が破産手続開始の決定をした時点ですが、破産手続開始の原因として、破産法15条1項で、「債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。」となっており、「支払不能」というものが破産手続開始の要件になっています。
「支払不能」とは、破産法2条で「債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」と定義されています。「一般的かつ継続的」に返済できない状態を指しますので、一部の債権者のみに支払えない場合や、一時的に滞納しているけれども、しばらくすれば売掛金が入金される等により返済原資ができるような場合は除かれると考えられます。
法人の場合には、破産法16条1項で「債務者が法人である場合に関する前条第一項の規定の適用については、同項中「支払不能」とあるのは、「支払不能又は債務超過(債務者が、その債務につき、その財産をもって完済することができない状態をいう。)」とする。」とされており、「支払不能」に加えて「債務超過」も破産手続が開始される要件に加えられています。
帳簿上(貸借対照表上)の債務超過の場合はこれに該当しますが、帳簿上(貸借対照表上)は債務超過になっていなくても、一部の資産が実質的には無価値となっており、実際には債務超過状態になっている場合もあり得ます。
このように、破産法上は、「支払不能」か「債務超過」が破産手続を開始するための要件になっています。
しかし、この要件を満たすと当然に破産しなければならないというわけでもありません。
自己破産は自分で裁判所に破産手続を開始するように申立てをする場合ですが、そのように申立てをしなければ、法的な破産手続は始まりません。企業等が債務超過であっても、債務に当面返済しなくても済むもの(例えば役員からの貸付で返済が保留にされているもの)があり、資金繰りに困っていなければ、破産する必要性はありません。
また、支払不能状態にあっても、業務を行うために最低限必要な資金繰りや仕入れなどができていれば、一応の営業活動は可能です(ただしこの場合、債権回収できない取引先には迷惑をかけることになります)。
ゼロゼロ融資の返済が始まった場合に、どの程度の倒産(破産)が増えるのかは、これからの状況を見守るしかありませんが、破産手続開始の要件を満たしたとしても、必ずしも破産するわけではないことは注意が必要でしょう。
ただし、破産法18条1項で「債権者又は債務者は、破産手続開始の申立てをすることができる。」と定められており、破産手続開始の申立てができる主体に「債権者」も含まれていることには注意が必要です。
支払いができない状態になっていると、いきなり債権者から破産の申立てをされ、裁判所から呼出状が届くかもしれません。