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2023年1月10日
名古屋総合法律事務所
杉浦恵一
ウェブ上のニュースによると、令和4年12月5日に、大阪地方裁判所で、新型コロナウイルスの対策のためのマスク着用指示に従わず、マンションの住人に不安を与えたことなどを理由に、マンションの管理人が解雇されたことが争われた裁判に対して、解雇を無効とする判決が出された、といった事例があるようです。
新型コロナウイルスは、一時期に比べて毒性が弱くなってきていると言われていますが、それでも未だ多くの規制がかかっており、色々な場所でマスクの着用を求められたり、着用を要請されることが多くあります。
そもそも解雇は、労働契約法16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められていますので、客観的に合理的な理由を欠くか否かと、解雇をすることが一般社会の常識からして相当なものであるか否か、という2つの点で審査・判断されることになります。
裁判では、色々な主張があり、その主張が事実として認められるか否か、認められたとしてその事実が重要か否か、といった点で結論が変わり得ますので、今回の事例では、どのような点が問題になったのでしょうか。
この事例では、マンションの管理人がマスクを着用しておらず、それによってマンションの住人からマスクをしていない管理人がいるとクレームが入ったそうです。
そのため、勤務先(雇用者)は、その管理人に対して、給料が安くなる清掃員へ仕事の内容を変えるように打診したものの、マンション管理人(従業員)がそれを拒否したため、勤務先から、マスク着用指示に従わず、マンションの住人に不安を与えたことを理由に、解雇をされたという事案のようです。
ニュースによれば、これに対する裁判所の判断として、まずマンションの管理人の義務として、会社の指示に従い、新型コロナウイルスの感染防止対策を徹底しながら、職務を遂行する義務を負っていたという点は認定されているようです。
その上で、①マンションの住人から寄せられているクレームが1件であること(証拠上確認できる範囲でと思われます)、②勤務先(雇用者)に、クレーム等による管理契約等の解除などの実害が生じていない、③労働者のマスク未着用に対して勤務先がそれまでに指導した実績がない、といった点から、解雇までは認められないとして、解雇を無効と判断したそうです。
なお、この裁判では、マンション管理人から勤務先に対して、解雇の無効だけではなく、解雇や清掃員に配置転換したこと自体が不法な行為であり、これに対する慰謝料の請求もなされていたそうです。
これに対して裁判所は、マスク未着用が状態化している場合には、マンションからの異動・配置転換は相当な判断であり、勤務先の配置転換に不当な目的があるとは認められず、配置転換後の業務により従業員に特段の負担を強いるものではないして、配置転換は不法な行為ではないと判断しているそうです。
解雇に関しては、解雇自体は無効であったとしても、マスク未着用という業務指示への違反などがあったことから、解雇をすることが一見して明白に不当とまでは言えないとして、解雇をしたことが不法行為とまでは言えないと判断したそうです。
今回の案件では、労働者が会社の指示に従って感染症対策をする義務があったことは認定されてるようですので、その義務に反しているとして、解雇することまでが相当であったかどうかが大きなポイントではなかったかと思われます。
例えば、マンション住人からのクレームの件数や頻度がかなり多かった場合、会社からの繰り返しの指示に反してマスク未着用だった場合、解雇以前にマスク未着用などを理由に懲戒処分がされてた場合など、事情が変われば、解雇が有効であった可能性も考えられます。
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