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2022年11月7日
名古屋総合法律事務所
杉浦恵一
最近の報道で、某IT企業が、時間外労働手当として80時間分を最初から固定残業代としてつけていることが話題になりました。
そもそも所定の労働時間は、労働基準法により、1日8時間、1週間40時間とされており、残業は、会社と労働者(労働組合等)との間で協定がなければ、行うことができないとされています。
また、協定があったとしても昨今の規制強化により、原則として月45時間、年間360時間までの時間外労働が上限とされており、臨時的な特別の事情があって使用者・労働者間で合意する場合であっても、年間720時間以内、月100時間未満、2から6か月の平均が月80時間以内、というような規制が行われております。
この点から考えますと、月80時間分の固定残業代を支払うということで、実際に1年・12か月の間、毎月80時間の残業を予定していれば、問題が生じるのではないかと考えられます。
また、労働時間の規制とは異なりますが、過労死の判定基準から考える必要もあります。
過労死とは、「業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡」、「業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡」(過労死等防止対策推進法2条)と定義されています。
厚生労働省による解説では、月100時間を超える時間外・休日労働がある場合、又は2から6か月平均で月80時間を超える時間外・休日労働があるような場合には、健康障害のリスクが高いと言われています。
そのため、1年・12か月にわたって月80時間の時間外労働が予定されているような場合には、過労死になるリスクが高いと考えられ、そのような予定をしてもいいのかという問題が生じます。
固定残業代を設定するメリットとしては、①基本給+固定残業代により給料が多く見える、②固定残業代の範囲内では残業代を計算する手間を省くことができる、③残業代が発生した際に固定残業代は残業代計算の基礎となる賃金に入れなくても済む、といった点が一般的に挙げられています。
他方、固定残業代を設定したとしても、残業がある職場は、実際の残業時間を基に計算した残業代が固定残業代の金額を上回るかどうか時間管理・把握をして、上回っていればその分を支給しなければならない、という問題はあります。
そうしますと、結果的には残業時間は管理・把握しなければなりませんので、必ずしも固定残業代という制度が優れているとは言い難いのではないでしょうか。
固定残業代を設ける場合には、基本給と残業代部分が明確に分かれているなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
また、あまりに長時間の残業を前提とした固定残業代を設定していると、それ自体が公序良俗違反として無効になる可能性もあります。
過去の裁判例では、実際に長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していた訳ではないことを示す特段の事情が認められるような場合を除いて、労働者の健康を損なう危険のあるような問題のある時間外労働を前提とした割増賃金の設定を、公序良俗に反するものとして無効と判断したものがあります。
固定残業代が無効になった場合には、その固定残業代部分は基本給に含まれるものと解釈されることが多いと考えられます。
そうしますと、固定残業代制度で残業代が発生しないと予定していたら、実際には基本給+固定残業代を残業代計算の基礎となる賃金として残業代が計算され、かなり多額の残業代を支払うことになりかねないというリスクがあります。
そういった場合を想定すれば、無理に固定残業代を設定するよりも、実際の残業時間を管理・集計し、それに応じた残業代を支払った方が、経営上のリスクは少ないのではないかと考えられます。
最近では、様々な労働時間管理方法、給料計算のソフトウェアなどもありますので、そういった機器・ソフトウェアを活用し、労働時間管理・集計の省力化を図る必要があるでしょう。
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