著作物の利用許諾契約
1. 始めに
ここでは、著作権の利用許諾契約について述べます。
著作物について著作権が成立している以上、著作権法(以下、「法」といいます。)が定めた場合、すなわち権利制限規定が適用される場合や、著作権の保護期間が経過した場合を除いて、基本的に、著作権者以外は、著作物の利用行為を行うことができません。仮に、無断で利用してしまうと、それは著作権の侵害となり、差止請求(その利用を禁止されることです。)や損害賠償請求を受ける可能性があります。
そこで、著作物を利用したい人は、著作権者との間で、著作物を利用することを認める契約を締結する必要があります。この契約を利用許諾契約といいます。
2. 利用許諾契約の内容
⑴ 大要
以下では、利用許諾契約の内容として、一般的に定めるべき事項について述べます。
なお、利用許諾契約は、あくまでも契約ですので、契約の当事者間でのみ効力を持ち、契約書当事者以外の者に当然に効力が及ぶわけではないことに注意が必要です。さらに、利用許諾契約により得た著作物を利用できる権利は、著作権者に無断で他者に移転することもできません。
⑵ 許諾の範囲
まず、利用許諾契約において、最重要とも言えるのが、利用許諾の範囲です。つまり、ライセンサー(利用許諾を付与する側の人)が、ライセンシー(利用許諾を付与される側の人)に対し、どのような行為をすることを許すかということです。
法は、著作権の利用行為を21条以下に具体的に規定しています(例えば、複製(法21条)、展示(法25条)、譲渡(法26条の2)など)。利用許諾は、ここに規定された行為ごとに付与することはもちろん可能です。
ただ、合理的に解釈が可能な限りでそれより細分化した許諾を付与することも可能です。すなわち、ある著作物について、複製をすることは許すが、展示は許さないという内容が可能であるのは勿論、複製の内でも特定の目的の複製のみ許諾するということも可能ということです。
⑶ 独占性
ライセンシーとしては、著作物からの利益を独占するために、利用許諾を受けると同時に、自ら以外の者へは利用許諾を与えないで欲しいを考えることは当然想定されます。そこで、利用許諾契約の内容として、ライセンサーは他の者への利用許諾を行わない、すなわち、ライセンシーに独占的地位を付与するという条項を設けることがあります。
なお、このような独占的契約を結んでいない場合に、第三者が著作権を侵害したとしても、ライセンシーは何らの請求をすることはできません。これは、第三者が無断で著作物を利用したとしても、ライセンシーも当該著作物を利用できている以上、契約上作り出された地位に何らの問題も生じていないと評価されるからです。
これに対して、独占的契約を結んでいた場合、ライセンシーがどのような請求ができるかについては争いがあります。
これは、独占的地位という第三者との関係が重要となる地位が契約上認められているためその地位を保護するべきということと、既に⑴で述べたように、あくまで契約であるため、契約の当事者以外に効力が及ぶわけではないという相反する考慮が働くからです。
まず、損害賠償については、独占的に利用できるというライセンシー固有の利益を侵害するものとして認められる傾向があります。一方で、差止請求については、より強い争いがあります。裁判例としては、これを否定したものもありますが、著作権者が侵害者に対して有する差止請求権をライセンシーが代位行使するといった根拠で差止請求を肯定するべきという見解も根強いです。
⑷ 期間
次に、重要な事項としては、利用許諾が付与される期間があります。どの程度の期間存続させるのか、その継続期間が経過した後の契約更新は自動で行うのか否か等を、契約両当事者の様々な事情を考慮しながら、決定する必要があります。
⑸ 使用料
最後に、当然ですが、使用料も利用許諾契約の内容として定める必要があります。ここでは、使用料の額はもちろんのこと、支払時期や支払い方法、振込手数料の負担主等、使用料支払いにおいて紛争が生じないように、細かい部分まで決定しておくことが必要です。
なお、使用料の額については、定額という定め方も考えられますが、売上等に応じた歩合制も考えられますし、その双方を組み合わせることも考えられます。契約両当事者が納得できる形の算定方法を柔軟に追求することが可能です。