『マチ工場のオンナ』 第1話 大嫌いなお父さん
1. あらすじ
2004年、32才の専業主婦の有元光(内山理名)は自動車部品メーカーに勤める夫・大(永井大)と息子・航太の3人で名古屋郊外に暮らしていた。
ある日、光の父で町工場の社長の泰造(舘ひろし)が突然体調を崩し、入院。余命数日のガンだった。
ショックを受ける母・百合子(市毛良枝)や職人の勝俣(竹中直人)・純三(柳沢慎吾)たち。
光は会社存続のため重要書類や印鑑を探すが、光に社長を継がせる気がない泰造は、教えようとしない。
(マチ工場のオンナ|NHK ドラマ10 – NHKオンライン
https://www6.nhk.or.jp/drama/pastprog/detail.html?i=4588から引用)
2. 男の子として、そして後継者として生きる。そして、遅れた時期の父への反抗
最初のシーンは、駅前広場で父に怒鳴られる中学生の光、『自分が間違ったことをしてないんならそれをちゃんと表現しろ』、人にものも言えないようなおとなしすぎる性格では2代目はできないと。
『大学は工学部しかいかせないからな』『他の学部なら金はださない、働け』
『アルバイト先決めてきてやったぞ』とガソリンスタンドで真っ黒になって働く光。
『(取引先が)秘書をほしいそうだ』と入社した自動車部品会社で、エンジニア採用の作業着姿の光。
ところが、遅れた時期での父への反抗か、入社した自動車部品会社を2年で結婚退職すると、そして、妊娠を告げる光。
そこに落胆に打ちひしがれる父の姿があったが、光『勝った……』と。
3. 金庫のダイヤル錠の暗証番号は、セドリックのブリキのおもちゃの車体のナンバープレートだった。
光は医師から、父は余命3、4日と告げられる。
経理担当の打越が告げる。
『印鑑がなければ今月末の支払ができません。支払いが滞れば不渡りが出ます。不渡りが出れば、うちみたいな小さな会社は一発で倒産です。』
印鑑のありかを探す二人。権利書や手形、実印、銀行印、通帳……。
金庫を見つめる光と打越。
資金管理表・帳簿を見つめる光。
『……打越さん、父の会社、いつからうまくいかなくなったんですか』
病室で
泰造『……。何を聞きたい』
光『……。大事な印鑑のある場所。金庫の番号』
泰造『……』
光『……』
泰造『確かに、会社にとっちゃ大事なことだ』
光『そうでしょう、だからーーー』
泰造『お前には教えん』
光『……』
泰造『何でお前に教える?俺の会社だ。お前に何の関係がある?跡継ぎでもない奴に金庫の番号なんか教えられるか』
光『……』
光と泰造の迫真のやり取りが病室で続きます。
その夕方、会社社長室で家族の写真を見る。兄・和樹が写った写真、和樹はセドリックのミニカーを持っている。
和樹の遺影の前でセドリックのミニカーを握りしめて号泣する泰造。
そのミニカーはやがて光が持つようになっていた。
光は、ハッとして金庫に向かい、ある数字をダイヤルする。
金庫が開いた。中には、権利書や手形、実印、銀行印、通帳……。
その一番、奥にあったもの。
それは、セドリックのブリキのおもちゃ。
暗証番号は、その車体のナンバープレートの番号だった。
4. 病室に駆け込む光。
モルヒネの投薬で意識が薄れていく泰造。
目があったその瞬間、泰造が最後の力で、鋭い眼差しで、光を見た、
光『会社は私がやるから!』
思わず叫ぶ光。
泰造『……』
泰造、安心したように息を引き取った。
5. 内山理名さんの演技が光ります。
父泰造の娘の光への後継の期待がひしひしと伝わります。
そして、どんでん返しの結婚退職と妊娠を告げられます。
落胆に打ちひしがれる父泰造。遅れた時期の父への反抗だと思います。
期待に背中を押され続けた場合に、遅れた時期の反抗があることは、家族関係でよくあることですが……。
6. ドラマでは描かれていない現実のダイヤ精機株式会社~原作『町工場の娘』から
バブル期の負債があり過大債務を負い自転車操業の町工場。
当時のダイヤ精機株式会社は、3億円ほどの売上高に対して、27人という社員数はいかにも多すぎるのでした。
ダイヤ精機には営業、製造、設計の3部門がありましたが、各部門の収支と人数のバランスを考えると、不採算の設計部門の解散は不可避でした。
小さな町工場に社長秘書、運転手がいるのが無駄と感じ、設計部門の3人に秘書、運転手の2人を加えた5人はリストラすべきと考えた。
バブル期に膨らんだ会社の規模を一度縮小し、出費を減らす。そして、体力を回復したう上で、再び成長を目指す。
原作者の諏訪貴子氏は、父から、1998年、「ダイヤ精機の仕事を手伝ってほしい」と頼まれ、経営状況を改善する方策を探って、このような提案をしました。
2週間ほど経ち、リストラ対象者5人にそれを告げる日、朝社長室に呼ばれ、父から、「明日から、お前は会社に来なくていいから」と。
父は、リストラ対象の社員はそのまま在籍させ、リストラ提案した諏訪貴子氏だけを、リストラしたのです。
7. そして父と娘の別れと決断
このような経過があり、2004年、
光が『会社は私がやるから!』と思わず叫び、泰造『……』安心したように息を引き取ったのです。
感動のシーンでした。